OCT (Optical Coherence Tomography) とは、光干渉断層撮影または光干渉断層計と呼ばれる計測器です。人体に影響のない強度の光を利用することで、非破壊・非侵襲で高速にサンプル内部の3D画像を取得することができます。医療分野や産業分野で広く利用されるOCTの計測原理についてご紹介いたします。
OCTは干渉計
OCTは従来からあるマイケルソン型(Michelson interferometer)やマッハツェンダ型(Mach-Zehnder interferometer)をもとに開発された低コヒーレンス干渉計の一種です。
OCTの計測原理
装置構成
一般的なOCTは、SLD(Superluminescent Diode)などの低コヒーレンス光源(広帯域光源)、ビームスプリッタ、ガルバノミラーなどのレーザー光反射鏡、参照アーム、サンプルアーム、検出器で構成されます。
基本原理
下図はマイケルソン干渉計の基本構成図を表します。光源から照射された光はビームスプリッターによって干渉計の参照アームとサンプルアームと呼ばれる2つの経路に分割されます。各アームの光は参照ミラーと計測対象物それぞれで反射され、反射光がアームのファイバ内へ再入射されて検出器手前で結合されます。参照アームとサンプルアームでの光路長(光学的距離)がほぼ等しい場合にのみ、光干渉が発生します。
計測対象物の各深さでの光路長と等しくなるよう参照ミラーを光軸方向に移動させながら、光の強弱である干渉縞を検出器を通して測定します。横軸に参照ミラーの移動量、縦軸に光の強度としてみることで、計測対象物のどの深さで光が反射しているかを特定し、コントラスト表示することができます。
測定対象物内に屈折率の違う境界が存在すれば、各境界面で反射や散乱した光が検出器に戻ってくるので、生体や積層フィルムなどの多層構造のイメージングに役立てることができます。
内部の3D画像の取得
一般的にサンプルアームから計測対象物に照射される光はマイクロメートルオーダのスポット光です。OCTでは計測対象物の深さ情報を取得しながら、ガルバノミラーなどの反射鏡を用いて照射する光のスポットをXY平面で2次元にスキャンすることで、計測対象物の表面や内部からの反射光や散乱光にもとづいた3Dボクセルデータを作成します。
シンクランドのOCT装置を用いれば、断面図であればほぼリアルタイムに、3Dボクセルデータであればレーザー顕微鏡の約10分の1の時間でイメージングができます。
光によるサンプルへの影響
OCTの最大の特長は人体に影響のない弱い強度の近赤外光を用いた非破壊検査器であることです。計測対象物に光化学ダメージや光熱ダメージを与えない為、非侵襲な計測が可能です。
また、計測対象物と接する必要がなく、かつ超音波検査器のように音響インピーダンスマッチング材を計測対象物に塗布する必要もございません。
OCTの分解能
コヒーレンスとは
OCTは低コヒーレンス光源を用います。コヒーレンスとは光干渉の発生のし易さ(=光の可干渉性の度合い)を示す尺度です。低コヒーレンス光源は、無数の波長の異なる光を持ちます。それらが互いに干渉し合って、空間における光の正弦波振動パターンの包絡線は紡錘形になります。
コヒーレンス長と分解能の関係
コヒーレンス長コヒーレンス長(可干渉距離)とは、正弦波の位相が安定している空間的な長さであり、空間中のある一点で正弦波が継続する時間をコヒーレンス時間(可干渉時間)と呼びます。コヒーレンス長は、コヒーレンス時間と光速の積で表されます。具体的には、空間における光の正弦波振動パターンの包絡線の半値全幅をコヒーレンス長と定義され、下記の式で表されます。 (光源のスペクトル幅:Δλ、中心波長:λ0) コヒーレンス長を求める計算式 低コヒーレンス光を用いるとわずかな光路差で干渉が消滅するため、コヒーレンス長の範囲でのみ干渉が起きます。その為、OCTではコヒーレンス長の局所範囲での干渉強度を深さ方向に測定します。 OCTの深さ方向の空間分解能はコヒーレンス長に比例します。つまり、光源の帯域と中心波長によって空間分解能が決まります。 |
分解能と侵入深さはトレードオフ
OCTは侵入深さ(最大計測深さ)に特長があります。光源として近赤外光を使用するので、計測対象物によって光が散乱され易く、侵入深さは数ミリメートルに制限されます。また、OCTは数マイクロメートル~数十マイクロメートルの、他の方式に対して比較的高い空間分解能を持ちます。
侵入深さと分解能はトレードオフの関係にあります。その為、用途や目的に応じてOCTや超音波、共焦点顕微鏡などの最適な検査機を選択する必要があります。シンクランドのOCTはサンプルに合わせて光源の中心波長を840nm~1060nmにカスタマイズします。波長が短くなるほど空間分解能は高くなる一方、散乱が大きくなるため侵入深さは小さくなります。
OCTの適用範囲
OCTは1990年代初頭に提案されてから、これまで眼科検査、冠状動脈検査、食道がん検査など主に医療目的で発展してきました。
今後は実験室や病院を飛び出して、工場での製品検査やセンシングなどの産業用途、または家や車の中での健康診断や超未病検査機などのライフサイエンス用途で、人体へ影響のない安全な検査機として広く普及していくと考えられます。
シンクランドではこれまで、OCTによる様々な計測にチャレンジしてきました。
多層フィルム内部、レーザー加工形状、ペットボトルのキズ、半導体パッケージ基板内部、不織布内部、金属表面キズ・打痕、食品内部、生体のリアルタイム計測の実例を是非こちらでご確認ください。
デモ計測や受託計測を承っておりますので、「計測できるかな?」という疑問がございましたら、ぜひシンクランドにお問い合わせください!